陽射しの強い日には、水蒸気による春霞で、なかなか、霊峰・富士は姿を見せてはくれない。
第6感が働いたと言えばカッコいいが、夜勤明けで昼過ぎまで寝ている私にとっては、この日しか出掛けられなかった。吾妻山の桜も、「正月の菜の花」、「晩夏のコスモス」に劣らず、富士山を借景としてカメラマンには人気のある場所である。
大地からの水蒸気が発生を止める夕暮れ時に、霊峰・富士が西の彼方に浮かび上がってきた。一本桜を撮影しているのは私だけ、7人ほどいたカメラマンは皆帰り、吾妻山をねぐらとする鳥達のざわめきを聞きながら、暗い夜道を下山したのである。 |