6月の栞  『秩父のヒメ蛍』

600頭、それは劇的増加であった。
前々日まで、地主さんからのお電話では、その数は悲惨だった。
1頭、4頭、30頭、・・・数字があまりにもお気の毒なので、「沢山出てからでいいですよ。」と申し上げた。
倉皇しているうちに、師匠を、お連れする15日が来てしまった。
途中、新規開拓地、あきる野の源氏蛍探索もあるので、あまりやりたくない事だったがぶっつけで秩父まで走ることになった。
天候は晴れ、秩父入りして、稲光が激しく光っていたものの、にわか雨程度で済んだ。
いやむしろ曇りのままであって欲しかったが、やがて満月を少し過ぎた月が、やたらと明るく上って来た。
撮影には、かなりの影響があり、休耕田や栗畑など、上に木がないところの撮影は厳しかった。

もっとも個人的には、ヒメ蛍の撮影よりも、地主さんの奥様に頼まれたお届けものがあったし、日ごろの、ご無礼をお詫びしなくてはならなかったのと、自分より師匠に満足の行く写真を撮ってもらえれば(師匠は蛍、特にここのヒメ蛍の撮影の為、35ミリ短焦点を新調されたので)、この日の自分の役目は果たしたことになると考えていた。

例年より、1週間から10日遅い「光の絨毯」に、一番安心したのは、F氏だったかもしれない。
いつも23時ごろ、ご自宅を出発し、行きに数え、帰り道再びカチャカチャを押し、平均を取る。
この日カウンターにライトを当て数字を見ると、にっこり笑った。
その表情は暗闇ではっきりはしないが、充分察することが出来た。

2月の大雪で秩父は大変な被害を出した。
昨年、私が撮ったヒメボタルの写真には、しっかり写っていた、ビニールハウスが今年はない。
家の前の大きな通りはすぐに除雪してくれたが、生活道路は暫く不通だったそうだ。
分厚い雪をかっぶたヒメ蛍の幼虫は、生きながらえられるのか? そしてその後暫く少雨だったと言う。
果たして・・・。
「いつもなら6月第1週にピークが来てもおかしくないから、今年はもう出ないのでは?」地元の朝日新聞のプロカメラマンY氏も一時そう思ったと、この日の蛍の乱舞を見ながら語ってくれた。

今こうして、沢山の光の玉を目の当たりにすると、、ただ彼らの生命力に敬意を表し、感謝するしかない。
去年より遥かに多いカメラマンが駆けつけ、最奥部など撮影場所が確保出来ないほどの有名地になって、少し心配だが、この素晴しい生息地をずっと残したいと思うのは、地元の方、カメラマン問わず全員の気持ちであることは間違いない。
結局、昨年とあまり変わり映えしない「竹林」と、定番スポットである、「どん詰まり」の撮影に終わってしまった。
ただ、昨年と異なるのは、休耕田、草原、その他至る所で飛んでいたと言うこと。
自分に、これらの場所での撮影技量がないため、F1,4で30秒も開けておくと、昼間の写真になって、蛍と葉の緑が同色化してしまうのです。
まだまだ未熟です。
午前2時半ごろ群馬からいらしたkazuさんが帰り、入れ替わりに若い背のあまり高くないカメラマンが竹薮に近づいてきた。

今頃?と思ったが、話をするのも疲れていたので無視していたのだが、「コンバンワ」と挨拶をしてくるので仕方なく応じた。
その話が愉快だった。

「ここが、だんだん知れ渡ってきたので、自分で新規開拓した場所がある。」とのこと。
オーそれは耳寄りな話だこと。
そこで初めて彼の方を振り返り、顔を見て話を聞くことにした。
「このくらいは飛んでますよ。」
「ここからそんなに遠くないですよ。」
「新規開拓なので、何人かしか知らないと思います。」
「昨日は友人と二人で行きましたが、今日は一人で行きました。」
ここまでは良かった。

が、実は、この場所への到着が今頃になった理由は、二晩ともイノシシが傍まで来て、怖くて固まっていて、いなくなるまで動けなかった。という落ちが付いていた。
「初め、カサコソ音がして、『誰か来たのだろう。』位にしか思っていなかったが、どうも鼻息が荒いんで、不思議に思って振り返ったら・・・。
懐中電灯を当てても一歩も引かず、じっと相手もこっちを睨んでいた。
少し後ずさりして、イノシシが立ち去るのを待つだけでした。
そんな訳で・・・今頃来たわけです。」

私、当初是非とも場所を聞きだそうと思っていたが、この話をされたとたん、聞きたくなくなった次第。

そういえばF氏も、「庭にあった山百合の根がイノシシにやられて、全部なくなった。」と言われていた。
この辺でも、遭遇の可能性は全くないわけではなさそうだ。
その裏づけになるのか判りませんが、畑に赤色の点滅LEDが所々に設置されていた。 

撮影日:2014−6−15、6−16 秩父市下吉田にて

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