6月の栞  『ヒメ蛍2015(その1)』

秩父にお住まいのF氏は、必ずこの時期になると電話を下さる。
勿論ヒメ蛍の発生を知らせるためだ。
実のところ、今年は仕事が立て込んでいて、行く事が出来るか、大いに疑問であった。
「今年は結構早くて、5月18日に36頭出ました。その後、数が増えず、6月4日には気温12.5度だった事もあって、0でした。」

昭和8年のお生まれ、80歳を越えても全くのご健勝、お声にはいつものように張りがあり、お元気である事が分かるだけでも嬉しい。
もう何十年もの間、ご自宅近くの急坂をヒメ蛍の数を数えるため、23時に出かけておられる。
「流石に毎日は行かれなくなりました。」とはおっしゃるけれど、カウントはやめられないとの事。

流勢祭りの時は、早朝から夕方17時まで、社務所にドンと構え、接客に応じ、挨拶を交わし、ご祝儀を受け取ったり、とにかく多忙だ。
それでも、その合間を縫って、東雲流の桟敷席で撮影している自分の所まで来て下さり、短い時間だが話をしてくれる。

たまに自分の富士山の写真なども、知人からの購入依頼に実費で対応してくれたり、とにかく義理人情に厚い方なのです。
そういう人から、電話を戴いて無視する事はできません。
何とか時間を作って、ヒメ蛍の撮影は二の次にしてでも、お目にかかりに行かなければ失礼と言うもの。

テスト期間中とは言え、何とか(生徒の方はアルバイトに指示をして)7日の日曜日に出かけてきました。
去年10月以来の再会なので、例によって話に花が咲き、23時のカウントタイムを過ぎるまで、話し込んでしまいました。
お茶菓子のあとに、メロンが出て。次にスイカ・・・。
量も半端じゃなくお腹が水ぶくれ状態で、もと中学校校長、現在ケアハウスの事務長をなさていらしゃるF市のお知り合いの方と3人でヒメ蛍のカウントに出かけました。
気温17.5度でしたが300弱の飛翔が有り、ようやく3桁に乗った数字にF氏はほっとしたご様子でした。
前日が82でしたから、此処から増えるのではないかと予想がつきます。
残念ながら私が、撮影を始める頃には活動が鈍り(気温がイマイチ上がらない為)、午前2時には撤収せざる終えない数となってしまいました。
因って、この日は僅かな枚数しか撮影できていません。

翌日8日は23時近くから雨予想でした。
昨年この場所で知り合った、群馬のK氏が出かける日です。
過去に雨でもかなり飛んでいた、という事実と、F氏からも「雨より気温に注目して」との話を聞いていたので、彼にその由を連絡。
彼から、「仰せのとおり!飛んでいました。」の一報をもらった時はホッとした。
前日より気温が1度高かった事もあり、同じくらいの頭数が飛翔していたようでした。
彼から送られてきた写真は、暗闇の藪の中にカメラを突っ込み((露光をかせぐ為であり、雨を凌ぐ為でもあります)、2本の大木の間を存分に飛ぶ、ヒメ蛍の乱舞を捉えた作品でした。
言うまでも無くコントラスト、色、構図の全てで見事なものでした。
残念ながら何年も通っている自分にはそこが何処なのか判りません。
「こんな木あったっけ?」状態。
それだけ彼の目の付け所が素晴しいのです。  彼の作品を紹介します。 ⇒こちらです

自分が次に行く予定にしていたのは14日の日曜日、それまで何とか多くのヒメが飛んでいてくれることを願っていたところ、F氏から水曜日昼過ぎに電話があり、「今日辺りがピークだと思います。」とのお話。
「日曜日では遅いですか?」の問いかけに「おそい!」とズバリ。
「では、やり繰りして何とかそれより前に行かれそうでしたら、ご連絡いたします。」と答えルのが精一杯でした。
呆然とし、半ば放心状態。
気を取り直して、どの生徒をを何日の何時に変更しようか?のスケジュールの組み換えと、天気予報のにらめっこ。
予報では、木曜日の夜半から降る雨が、金曜日の昼には上がると。
だから木曜日は不適当だが、金曜日の21時の秩父地方の気温予想が21度とある。
気温がこれほど高いのは滅多に無い。
この日にしようと決断したのは、当日の夕方になってからで、出掛けにその旨の御連絡をF氏に入れ20時に出発。

圏央道が繋がったとは言え、矢張り週末だけあって交通量は多く、2時間半近くかかった。
圏央道(神奈川エリア)では初めて覆面パトにつかまっている車を目撃、ダークブルーか、黒のトヨタマークXにご注意あれ!

秩父に到着しても、珍しく蒸し暑く、F氏のご自宅の室温が25度、湿度66パーセント、外気温21度も予報通り。
またまた30分以上の長話になり、慌てて23時に機材を持って坂を降りる。

今夜は竹薮付近から、かなりのカメラマンが三脚と共にお出迎え状態。
残念ながら肝心の「お姫様」は結構冷たく、数えるほどしか歓迎してくれず。
毎年、竹藪が一番早く発生するのだが、今年は、出足こそ早かったものの、尻すぼみ状態だった。

次に、7日もそこそこ飛んでいた休耕田へ。
反対側の小高くなっている所は、ご近所のお嫁さん夫婦が家を新築される為、既に工事が始まっていますが、、「ヒメ」はそんな事はお構いなく活発に飛んでいました。
この日は、どんよりとした雲に覆われていて無風、少し早足で移動すれば汗がにじんで来そうなベットリ感。
秩父でこほどまでに蒸し暑さを感じたのは、ヒメの撮影に来て、おそらく初めて。

休耕田は全体を撮影すると、どうしても昼間の写真になってしまうので、群馬のK氏の手法を真似て、木の下を飛ぶ蛍にポイントを絞り(と言うより、現在蛍撮影用の第一候補の50ミリが入院中に付き、85ミリしかないので狭い範囲をアップで撮るほうが、レンズ特性が生かせると思い)ローアングルで試してみました。

不運(故障)は続くもので、今度は現地でEOS5Dのセットボタンがバカになり、モニター画面に表示させたメニューをセレクトする為、セットボタンを押してもまるで反応なし、撮影方法を決定できないのだ。
バルブや、ISO、F値はダイヤルが違うため助かったが、画像消去、ホワイトバランス、RAWからJPEGへの処理など多くの変更が出来ず、困った。
(後日、サービスセンターへ5Dを持参すると、顔見知りのH氏からカスタム機能で、マルチコントローラボタンに操作を任せることが出来、セットボタンを使わずにRAWからJPEGへ移行する事が出来ることを教えられ、現にその場で実行しました。)
そこでサブの7Dが主役交代で登場。
実は、このカメラに装着するSIGMA30ミリF1.4短焦点は、APS−C専用の為、蛍撮影以外ほとんど一年のうち10ヶ月を防湿庫で眠っているのだが、こいつが結構蛍撮影では威力を発揮してくれるコストパフォーマンスに優れたレンズで、岩手県二戸町のヒメ蛍の撮影時も頑張ってくれた。

バカになった、5Dを休耕田の隅にオートタイマーセットにして設置(半ば放置)、農道を奥へと進む。
予め地主さんから、竹林と突き当たりは、今年少ない事を伺っていたので、途中の草地へ。
いえ、そこへ行く手前のOさん宅に隣接する草地から道路にも溢れんばかりの光りの点滅。
凄い!これをどう表現したらよいのか、言葉が無い。
突き当たりの草鞋(わらじ)が攣ってあるところでは、一昨年、昨年とそれなりの「光りの絨毯」を目の当たりにしたが、この草原にこれだけの数のヒメが飛び交っているとは・・・。
普通、休耕田同様、平坦地ゆえ昼間の写真になりがちなこの場所だが、今日は最高!
空は暗い、いや黒いし、近くの工場の煙突の煙はまっすぐに上がっている。
午前中までの雨で湿気たっぷり、月は出るのが遅い月齢、短い露光でも十分な光りの点滅をキャッチできる。
急いで7Dを三脚に据える。
カメラマン15人ほど、ほぼ横一列状態で、短くシャッターを切る者、たっぷり露光する者様々。
皆一様に興奮しているに違いないのだが、その割には会話が少ない。
私も数人と会話したが、今日が一番だと言う事を断言した。
その一人が、「まるで小宇宙にいるようだ」と言っていたが、スペースシャトルにでも乗っているかのような表現、だいぶオーバーだが解らなくもなかった。
この日、ヒメは我々を3時過ぎまでここに釘付けにさせ、我々は姫がどこかへ立ち去るまで、レリーズを押し続けた。
途中、暗闇にまみれて、あちこちで三脚を立てて撮影するカメラマンが画郭に入り込んでいて、かなりの傑作が幽霊のような人物とコラボってしまい没となった。
それにしてもこれだけの数、F氏は一体どうやって数字をたたき出すのだろうか?
トマトときゅうりをゴッソリ頂き、朝の6時に小宇宙より帰還、床に就いてもまぶたの裏で光りの点滅は続き、なかなか寝付けなかった。
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撮影参考資料=蛍飛翔数

5月18日=36(今年初)、気温19度。 20日36、気温19度。 23日75、気温17度。 25日21、気温16度。 
28日9、7気温19度。 30日24、気温18度。 
6月1日30、気温18度。 6月4日0、気温12,5度。 6日82、気温14,5度。 7日300、気温17,5度。
8日300、気温18,5度。 9日429、気温17,5度。 10日648、気温記録ミス。 11日364、気温21度。
12日766、気温21度。13日も同じくらい出たそうです。
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毎週末は、カメラマンが30人以上は来られていたそうです。

埼玉県秩父市 6月7日〜8日、12日〜13日

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