6月の栞 『姨捨の棚田』

カメラマンの間では、棚田といえば山古志(新潟県長岡市)で、平塚市在住のF氏は毎年のように出かけている。
いつだったか、朝もやの中、朝日が差し込む幻想的な棚田写真をF氏から頂いたことがあります。
同時に物凄いカメラマンの数だとも聞いています。
何でも一日では満足な写真は撮れないことも多く、車中泊で二日は必要だと言われ、お誘いを断った事があります。
しかし、「いつかは棚田も撮ってみたいな」、との思いはありました。

山古志の棚田に関しては、行った事はないし、未明に到着しての場所探しも不安があったので、出来ればどなたかとご一緒したかったのですが、折角長岡まで出かけて、その日のうちにピストンで帰宅するカメラマンなんてなかなかいません。
そこで、土地勘がある長野県千曲市の、姨捨の棚田に出かけてみることにしました。
言うまでもなく、長野えびす講煙火大会の終了後に2回ほど寄っている、姨捨駅近くにその棚田はあります。
しかし、その時は、夜景撮影が目的ですから、田圃がどこにあり、どんな眺めかなど知る由も有りません。
11月ですから田に水があるわけでもないし、すぐ横を通っているにも拘らず、「案内の立て札があった」程度の記憶しか残っていません。
学生時代からの友人で、千曲市(以前の更埴市)で、老舗ホテル「うづら屋」を経営している友人から、「大体5月の中旬以降、田んぼに水が入るから」とは聞かされていましたが、なかなか行く機会がなく(何せ遠い)、これまで「富士山」と「ホタル」撮影に傾注していたというのが毎年の行動パターン。

                      5月29日撮影記録
午前0時半出発、長野市内までは大体4時間、その手前の更埴インターだから4時ごろには着く計算。
勿論一睡もいないでの出発だから、早く着いて仮眠でも出来れば・・・、と思いつつ。
直ぐ近所の姨捨駅まで来ているにも拘らず、薄明かりの中撮影ポイントを探すのは至難の業。
総面積25ヘクタール、1800枚の田、こんな数字を並べたところで「広いな」程度の感覚、問題はそんな数字では有りませんでした。
当たり前の事ですが、農道は相当な坂道、標高460メートルから550メートルの範囲にあります。
駐車場は長楽寺近くの姨捨観光会館50台、その手前新雲井橋右手に30台有り、早朝であれば満車になることはなさそう?
ただ、ここからJR篠ノ井線「一本松踏切」付近まで上がるとなると、結構息が上がる。

この日残念ながら、薄ぐらい内から日の出を待ったが、東の空は結構厚い雲に覆われてしまい雲を通しての光線すら漏れてこなかった。
カメラマンは10名ほど来ていたが、空振りの天気に冴えない表情が多かった。
ただ、矢張り初めての場所、実際目の当たりにする棚田は、その広大さと傾斜に、未経験な被写体ゆえの躊躇は否めなかった。
西蔵王放牧場のオオヤマ桜のように、桜を目印にして歩き回るのと違い、形の様々な田をどの角度で、どれだけの画郭で入れたり、入れなかったり、ある意味漠然と歩き回って見ないと分かりません。
この日、満足の行く撮影は出来ませんでしたが、土地勘は多少わかりましたので、少しずつ雲が取れ始めた姨捨を、後ろ髪を惹かれる思いで去りました。

                     6月3日再訪記録。
前日の天気予報を見ていると、「乾燥した晴れの天気も金曜日までです。」と気象予報士の綺麗所が宣ふ(のたまふ)ていた。
姨捨の朝日のチャンスではあったが、この日は逗子花火だ。
花火は動かせないから、姨捨は日曜日にしようか?とのんきに構えていたのだが、日曜日は天気悪そう。
そのうち曇り勝ちの天気が続けば、関東とて入梅だ(実際翌日には入梅した)。
内陸の長野はまだ天気は期待できるが、片道4時間、高速代とガソリン代で一万円弱を早々何度も遣っていられない。
ここは強行突破、姨捨の早朝撮影をした脚で逗子海岸花火の場所取りに直行する事に決定。
場所さえ確保、後は寝ていればいいから何とかなるでしょう!

午前4時頃、上信越道佐久平手前を走っている頃、東の空が微かに赤くなり、雲がないことを確認。
予報通り、善光寺平の右側、大峯山付近から朝日は上がってくれた。
勿論、高い山の上ではないから、「ご来光」とはいえないけれど、眩しい太陽が顔を出してくれた。
この瞬間を撮り、もし出来上がった写真が大した感動を抱かなければ、それはそれで納得。
しかし、百聞は一見にしかず、自分が見、撮影してみなければ姨捨の棚田がどんな風だか判らない。
光の反射で、水面が輝き、鏡のようにローズアップされた時、これぞ棚田と思える写真が欲しい。
この日、視界が開けた現場に立ち、眼下に広がるそれを見て、戸惑いを感じた。
それは、朝焼けの美しさであり、朝日が顔を出した瞬間であり、そして何よりもその一面に広がる棚田の広さに・・・。
この瞬間をどこで、どういうアングルで撮れば、感動ものの写真が撮れるのか全く判らない。
判断に迷っているうちに、結局高台の見晴らしのいい所から、歩き回る事も出来ず、立ちすくんだままシャッターを切った。
何度も来る事ができれば、季節ごと・時間ごと・天候ごと色々な表情を見せてくれることだろう!
とりあえずは、いつか、ここの売りである「中秋の名月」を拝みたいものだ。
まだ午前5時だというのに、やたらに強い太陽光に、正午近くではないかと錯覚する中、短い仮眠と少量の朝食をとった後、逗子へ向かった。

「おもかげや 姨ひとりなく 月の友」松尾芭蕉「更級紀行」より

<補足案内>姨捨には姨捨13景という主だった風景があり、丸一日かけて周れそうです。

撮影日:2016−5−29及び6−3  長野県千曲市大字八幡にて

写真はスライドショーでご覧頂けます。

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